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研究室の目標

脳の“神経回路”が発達し機能するしくみを、マウスを用いて解き明かす

ヒトの脳には千億個以上の神経細胞(ニューロン)があるといわれています。神経細胞は特徴的な形態をもつ細胞であり、多くの場合、軸索とよばれる細くて長い突起を1本と樹状突起と呼ばれる太くて短い突起を複数もちます。1個の神経細胞の軸索は別の神経細胞の樹状突起とシナプスを介してつながることにより、神経ネットワーク(神経回路)を作っています。このネットワークを電気信号が伝わることによって脳が働き、私たちはものを感じたり、体を動かしたり、考えたり、記憶したりすることができます。すなわち、脳は巨大なコンピュータのようなものです。千億個以上の神経細胞が不規則につながっていては脳は働くことができません。神経細胞が規則正しくつながり精緻なネットワークを形成していることが必要です。

コンピュータは人間が設計図をかいてそれにしたがって配線しますが、ヒトの脳は誰が設計して誰が配線しているのでしょうか?大まかな配線は、体の他の部分と同じくゲノムの中にあるDNA(遺伝子)の設計図によって決まっていると考えられます。しかしながら、画一的な行動をする下等動物とは異なり、ヒトなどの高等動物の複雑な行動を支える脳の回路を作るのにはゲノムの情報だけでは十分ではありません。

ヒトが母国語を獲得するとき、子どものある特定の時期にその言語を学習することが必要です。おとなになってから外国語を習得しようとしても容易ではありません。このように、子どもの脳は柔らかく環境などの影響を強く受けて発達し、それが生涯にわたる脳の働きを決めることを私たちは経験的に知っています。すなわち高等動物では、ゲノムの情報によって神経回路が大まかに作られた後、その回路を使いながら微調整するというステップを経て、最終的な精緻な回路が作り上げられます。大まかな回路は主に胎児期、精緻な回路形成は主に生後の子どもの時期に起きます。生まれた後の脳には外界から膨大な量の刺激が入ります。また、誕生前後の脳では神経細胞が自発発火する現象があります。こうした神経活動が脳の回路の発達に重要な役割を担います。

子どもの時期に環境刺激の影響を受けて(すなわち神経活動によって)脳の回路が作られる仕組みに関しては、1960年代のHubelとWieselらのネコやサルの視覚野を用いた研究以来の、モデル動物を用いた長い研究の歴史があります。しかしながら、様々な技術的な制約のため、いまだに多くのことが謎のままです。これらを解明することは、長期的にはヒトの子どもの正常な脳の発達の理解、科学的証拠に基づく子どもの養育や教育法の提言、発達障害の理解などもにつながることが期待されます。

私たちの研究室では、マウスを用いて、研究手法を自ら開発することにより、従来にない新しい角度から、高等動物に特有の脳の発達(すなわち、神経活動依存的回路発達)の分子・細胞機構を解明することを目指しています。

私たちの研究室で行う研究テーマを上記に限定するものではありません。ヒトの脳の発達や機能の神経回路レベルでの解明を目的とした、当研究室で遂行するに適したプロジェクトの提案を歓迎します。

私たちの研究の特徴

(1) マウスを用いることにより、個体、回路、分子を統合的に理解することを目指す

(2) 研究に必要な方法論の開発を自ら行い、オリジナルな研究を推進する

(3) 共同研究を推進し、幅広い技術や考え方を取り入れることにより、包括的な理解を目指す

具体的な研究テーマ

(1) マウス体性感覚系をモデルとした神経活動依存的回路発達の研究 (詳細)

(2) 神経回路の形成・成熟・機能におけるαキメリンの役割 (詳細)

(3) 神経回路の発達と機能の研究のための方法論の開発 (詳細)

主要学会

日本神経科学学会、北米神経科学学会、日本分子生物学会